演 目
その男の事情
観劇日時/12.10.28. 14:00〜15:15
劇団名/オル・アリ(韓国・光州市)
公演形態/ 北海道文化財団・韓国演劇協会光州広域市支会交流事業
作・演出/ヤン・テフン 照明/シム・ソンイル
音響/キム・ホンミ 映像/ヤン・ジョンイン
翻訳・字幕/木村典子
劇場名/琴似・コンカリーニョ

荒唐無稽の恐怖

 無断で外泊した大学講師の夫(=チョン・スンギ)が朝帰りする。その夫が一ヶ月前に偶然初恋の人に会っていたことを聞いていた妻(=チョン・ギョンア)は、昨夜も夫はその女性に会っていたのではないかと怒る。
 夫は言い訳を始めるが妻はなかなか納得しない。強烈な妻は暴力を用いて問いつめる。夫は問いつめられて、実は宇宙人に拉致されたと途方もない言い訳をする。
 そのころTVは、行方不明の女性の捜索が行き詰まっていることを告げている。
 そこへ夫の友人(=チョン・テソク)が自分の妻(=キム・ギョンスク)を捜しにくる。友人は自分の妻とその大学講師との不倫を疑っている。男はその友人の妻と偶然に会ったことは認めるが、それ以上ではなく、駅で別れた後、宇宙人に拉致されたと、とんでもない言い訳を性懲りもなく繰り返す。
 夢を見ているのかもしれない男は、様々な妄想をインテリらしい理屈で理論構築する。だが、この部分の独白は字幕を読む作業もあっていささか退屈する。大事な言葉をうっかりスルーしたかもしれない。
 裏切りに怒った妻と、嫉妬に狂った友人に攻められた夫は遂に殺害されたようだが、その辺の表現は曖昧だ。
 そのときTVは行方不明の女性が殺害されたことを報じると同時に、男の初恋の女性も殺害されたことも報じる。この二人の女性は同一人物なのか? そしてそれは何を表しているのだろうか?
 そのとき同時にTVは、この地球に住む宇宙人は銀河系の交通整備の為に地球を爆破するから退避するようにと勧告する国家の方針を伝える。妻と友人は退避の準備の相談を始めるところで、この話は終わる。
つまり一種の荒唐無稽の、でも近未来の怖いおとぎ話なのだ。作者も言っているように、この世で起こっている様々な恐怖の事件は、人間業じゃないのではなかろうか、宇宙人の仕業じゃなかろうか、って考えたわけだ。
 荒唐無稽ではあるけれども、そうとでも考えなければ生きていくのもシンドい現状なのかもしれない。一種の巨大権力の横暴による不条理の物語だ。
背景の、千切れて湾曲した線路を象ったオブジェが、この男の妄想の中の駅と、その妄想が行き所を失って千々に乱れる心境を表現しているようで、いかにも理屈っぽい感じだが巧く考えられていると思った。
 作者は「コミユニケーション不在の現代社会」と規定するのだが、この舞台を観るかぎり、むしろ地球人が悪しき宇宙人に乗っ取られたというイメージが強く、その方が救われる気分が微かに感じられるのもいささか情けない気もする。
 役者たちの演技は一見、ナチユラルに見えるが、かなり大仰で様式的な決まり芝居に見えて、最初ちょっと鼻に付いたが、この展開に慣れると逆にこの演技スタイルが、この芝居に合っているような気がする。