演目 ザ・ダイバー
観劇日時/11.5.21.
劇団名/実験演劇集団 風蝕異人街
公演回数/第47回
作/野田秀樹 演出・照明・装置/こしばきこう
協力/和泉一恵・工藤千草
制作/実験演劇集団 風蝕異人街
出演/女=李ゆうか 精神科医=三木美智代
  警部・頭中将=赤坂嘉謙 検察官=遠山達也
  源氏=宇野早織 帝=田村嘉規
  三人官女=平澤朋美・宇野早織・丹羽希恵
  右大臣・左大臣=田村嘉規・山谷義孝
劇場名/シアターZOO


様式美のリアリティ
 不倫の末に男の自宅に放火の結果、二人の幼児を殺害した女が逮
捕されたが、自分を認識することが出来なくなり、海中深く行動す
る海女であると意識し、その上、自分は源氏に愛された六条御休所
であると思いこむ。一種の精神障害に悩む女にまつわる話である。
 彼女の主治医である精神鑑定の精神科医は彼女に寄り添い、彼女
の深層心理を探るべく彼女に深く寄り添う。それは病を治すと言う
よりは、人の心の奥深く潜り込んで、その心の奥底を覗き見るとい
う行為の象徴的な行動とも考えられる。
 そういう物語を能の様式を遣い、主な登場人物は登場時に能面を
着用し、緋毛氈の雛壇に三人官女と右大臣・左大臣たちの和太鼓と
笛や和式な効果音道具を駆使するBGMが効果的だ。
 従って、演技もリアルではなく様式的であり、普段に鍛えられた
風蝕異人街らしい独特な暗黒舞踏風な表現が、この戯曲にとても良
くフイットして、やはり他人の心の奥底を覗き見ざるを得ない精神
科医という人間の、弱い心の究極の行動を感じさせる舞台を魅せて
いた。
 やはり良い戯曲を得ると、風蝕異人街は独特の魅力を大いに引き
出す力をもっている。
 難を言えば海底を表す波の擬音が、深海とそれに対応する人間の
心の奥底を表すには、深みが足りず、いささか安っぽいのが気にか
かった。