演 目 Night Trip 観劇日時/07.6.29 劇団名/コンテンポラリーダンスパフォーマンス マリ☆ナイト 公演回数/004 構成・演出/福村慎里子 照明/柳川友希・平井伸之 音楽/今井大蛇丸・コンチャキ 音響/伊東笑美子 宣伝美術/小島達子 協力/高橋正和 企画・制作/Theater・ラグ・203 劇場/ラグリグラ劇場 |
人間関係の象徴としてのデュエット サックスとダンサーの共演を得て一段と進化した『マリ☆ナイト』であった。 例によって、それぞれタイトルの付いた6つのセクション@ NIGHT trip Aプラチナ ロータス ルビー B night talk C セカイジュウ ニ アシアト D quiet heat E ソロ ソロ ソロ、に分かれているが、今回はわりとそのタイトルに忠実に分かりやすく演出されているように見えた。 「night trip」は、軽い寝息を立てる女(=福村慎理子)が夢を見ているかのように踊り出す。まるで寝技のダンスというか、ダンスの寝技というか、ほとんど無音のなかでゆっくりとそして徐々に激しく踊り時には立ち上がる。 寝ていても人の脳は活動する、しかも無意識に。それは恐ろしいことなのか? 楽しいことなのか? 人間の不思議な生命力…… 暗転になって次に明るくなると、彼女の寝転がっている傍にサックスが転がっている。もう一度暗転して明るくなると女は男(=東海林靖志)に変わっている。 さらに暗転して明るくなるとサックスの無くなった男は起き上がって、夢の続きを踊りだす。 しかしこの解説はあくまでも観客の一人としての僕の観方であって、創作者の思いと一致するとは保証の限りではない。そういうイマジネーションを沸き起こす舞台だ。 続いて舞台は、男と女の通じているようで行き違うような関係が象徴されるデユェットになる。ここでは二人のダンスはギクシャクした非人間的なロボットみたいな踊りになる。 男女の関係はさらにエスカレートし、二人はただ歩いて行き違うだけなのに、同じようなコースを何度も行き違いながら、行けども行けどもすれ違うばかりだ。 この二つのシーンは、人間性を欠如しかねない人間関係の象徴。 とつぜん、照明が変わると甘美なサックスのメロディ(演奏=コンチャキ)で二人のデユェットが演じられる。だがやはりこのデユェットも行き違いの、人間関係の弱さの象徴として演じられる。 このあとは一気呵成だ。とつぜん女がタップダンスを踊る。このダンスはかなり稚拙だ。稚拙なタップダンスが何を表現しようとしたのか? 新しい表現に挑戦する女の一瞬とサックスと二人のダンサーとの光の中でのわずかな交錯の時間があってあっけなく幕であった。 サックスの生演奏とのコラボレーションという新機軸に挑戦するという進化に『マリ☆ナイト』の真骨頂が感じられたのだ。 今度の舞台で印象的だったのは、音響効果の遣い方である。普通コンテンポラリーダンスは、音楽や音響効果とのコラボレーションが大きな相互影響を与え合う。 今日の舞台では禁欲的に音が制約されて、BGMとしてのベースのリズムに合わせた生演奏のサックスがときに入るだけだ。常識的には、ここで音楽が忍び入るだろうなと思われるところでも入ってこない。むしろ観客のフラストレーションの限界をも裏切る。それは一つの実験であり、音に頼らない意志の表明でもあろうか? それと最近、踊りが単純化されてマンネリの印象が強いのだが、それを新しい感性の演出で進化させようとしているのに期待が持てた。 さらに、これはこの劇場の大きな特性でもあるのだが、照明がとても美しいのだ。間口に比べて奥行きが深いからかもしれないが、ともかくタッパの低さを感じさせない見事な創りで神秘的・幻想的な明りを提供し、今回も舞台の魅力を増したことを強く印象付けたのであった。 |